銀野舎
銀野舎小説ショートショートストーカーには捕まらない
[2024/01/30] 小説ショートショート
ストーカーには捕まらない
 自宅への帰り道。ずっと私をつけている男がいる。まこうと思ってわざと人通りが多い場所を選んでさりげなく回り道や寄り道をしても、一定の距離を保ったままずっと私をつけてくる。これがストーカーっていう奴なのだろうか。どうしよう。
 おそらく、私がユウ君とお別れしたのを知って、私を狙っているのだろう。私がユウ君とお別れしたのは数日前だ。いつから私をつけているのか。ずっと私を見ているのか。怖い。ユウ君に連絡したい。助けて欲しい。でも、もう連絡はできない。


 お別れした原因は、ユウ君の浮気。でも、浮気くらい許してあげれば良かったかな。あんなに大好きだったのに、どうしてお別れしちゃったんだろう。だけど物凄く大好きだからこそ物凄く怒って許せなくなる時もあるよね。
 仕方ないよね。ユウ君もお別れして自由になれて、喜んでると思う。きっとそうだよね。残念だけど後悔はない。

 あの男はまだつけてくる。本当にストーカーだ。間違いない。警察に通報しようかな。いや、警察には連絡したくない。警察って怖いよね。「ストーカーされるほうが悪い」とか言われそう。それに、ストーカーに関係ないプライベートな事まで根掘り葉掘り聞かれそう。私は何も悪くないのに。
 ユウ君とお別れしたのが悪いの?自宅まで遠いのが悪いの?つけられるような隙を作ってるのが悪いの?私は何も悪くないよ。

 うわっ!電話の着信だ。ビックリした。誰だろう?ユウ君かな?それはないか。あ、ユウくんのお母さんだ。まただ。何度目だよ。私はもうお別れしたんだよ。ユウくんの実家に遊びに行った時に電話番号教えちゃったの失敗だったなぁ。しつこいなぁ。お母さん使うなんて、ユウ君ってマザコンだったのかな。あ、切れた。良かった。どうせ面倒臭いから絶対に出ないけどね。


 ストーカーはまだつけてくる。しかし、私がそれに気づいているという事にストーカーはまだ気づいていないようだ。
 私の勘の鋭さを舐めるなよ。私はユウ君の些細な言動から浮気に気付くくらい勘が鋭いのだ。そして、私の行動力を舐めるなよ。私はやると決めたら必ずやる。絶対に躊躇しない。だから、ユウ君ともお別れしたのだ。

 ユウ君を問い詰めても最初は浮気を認めなかった。笑いながら適当に有耶無耶にしようとしてきた。でも、私が本気で怒ってることに気付いて、泣いて土下座して謝ってくれた。だけどそれでも許さなかった。絶対にお別れすると決めていた私の心は変わらなかった。でも、謝ってくれて嬉しかったなぁ。最後に笑顔でお別れできて良かった。

 もうすぐ自宅に着く。だんだんと人通りが少なくなっていく。おそらくこの辺りだろう。私は自宅とは逆方向に角を曲がり、ダッシュして走り出す。
 後ろを振り向くと、ストーカーもこちらに曲がって追い掛けてくる。やはり私の予想通りだ。ストーカーはここで私を襲う計画だったのだ。しかも2人いるようだ。ストーカーは2人がかりで私を襲おうとしていたのか。卑怯な奴等め。


 ストーカーになんて捕まってたまるか。絶対に逃げ切ってやる。どうしても逃げられなくなった時は、ユウ君のようにお別れすればいい。
 私はバッグに手を入れて、ユウ君の部屋から持って来た包丁を強く握った。ユウ君の温もりがまだ残っているような気がする。ユウ君の鼓動を感じる。思わず笑みがこぼれる。
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