[2021/11/18]
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日記【2021年11月18日】 僕はまだ
漠然と、僕は死ぬのだと思っていた。
だから、貴重品の場所、パソコンやスマホのパスワード、仕事の引き継ぎ方法、必ず連絡して欲しい友人、最後に伝えたい事、自撮り写真データ、などをまとめてＵＳＢメモリに保存してメモ書きの付箋を付けて、机の一番上の引き出しに入れていた。
２回目のワクチン接種の翌日、その時が遂に来たと思った。
副反応は２回目のほうが強くてそのピークが２４時間後に来ると聞いていたのである程度は覚悟していたが、予想を遥かに超える激しい頭痛が急激に襲ってきた。こめかみを強く締め付けられ、握り潰されて頭が爆発しそう。目の奥が激しく脈打ち、熱くて沸騰しそう。朦朧としながら薄目で時計を見るとまさにワクチン接種からほぼ２４時間後だった。
僕はゆっくりとベッドへ倒れ込み、歯を食いしばって我慢するしかなかった。
しかし、そんな中で冷静な自分もいた。とりあえず寝たまま腕を動かせる範囲で最低限のことはしておかなければと思い、ベッドの脇にあるコンセントからスマホに充電ケーブルを刺した。そして、ベッドに面している窓の鍵を開けた。もしも僕と連絡が取れなくなって家まで探しに来た人がいたとしたら、僕のスマホに電話すれば着信音が鳴って気づくかもしれない。そして、窓の鍵は開いているからそのまま入ってこられるかもしれない。
でも、もしもこのままベッドの上で死んで、そして数日経ったら、温かさで僕の身体は腐ってしまうのだろうか。それなら、冷たい床の上で寝た方がいいのだろうか。いや、床にはシミが付いてしまうと聞いたことがあるから、やはりベッドの上がいいだろうか。
そういえば今日の夜の歌番組に乃木坂46が出演するんだ。人生に未練も後悔も何も無いけど、僅か数時間後の乃木坂ちゃんくらいは見たかったなぁ。まぁ、でも、最後に思い浮かぶのがアイドルなのは幸せかも。
そのうち強い眠気に支配されて、何も考えられなくなった。
目を閉じていると、暗闇の中に何重にもなった歪んだ螺旋がゆっくりと渦巻いているのが見える。歪んだ螺旋が渦巻きながら頭が締め付けられていく。いつもは目を閉じたらこんなものが見えていただろうか。何が見えていただろうか。何も見えていなかっただろうか。分からない。思い出せない。
歪んだ螺旋を見ていると気持ち悪くなる。見たくないが、目を閉じても見えているものなので目を逸らすことができない。逆に目を開ければ見えなくなるだろうが、どうやって目を開けるのか忘れてしまった。
僕はそのまま気を失った。
僕は目を覚ました。
時計を見ると、あれから数時間経過している。まだ頭痛はしているが、さっきのような激しいものではなくいつもの軽い片頭痛くらい。この程度なら慣れているし大丈夫。
ベッドから起きて歩いてみると、浮遊感はあるが充分に動ける。冷蔵庫から飲み物を取り出し、一人掛けソファに座り、テレビを付けた。ちょうど歌番組が始まる時間で、トップバッターで乃木坂46が出てきた。乃木坂ちゃん可愛い。夢か現実か曖昧なままで歌番組を見終わり、またベッドへ行き、今度は何も見ずに静かに眠りについた。
それから数日が経ち、もう完全に副反応は終わったようだ。
朝から夜までパソコンに向かう。以前と変わらない平日に戻る。
僕はまだ生きている。
ＵＳＢメモリは今も机の一番上の引き出しに入れてある。
